はじめに

 出産前に読む本 赤ちゃんも満足する母乳育児の3ポイント 

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第一章立ち読み

はじめに

2007年春、厚生労働省から「授乳・離乳の支援ガイド」が発表されました。

これを目にした時、「やっと日本にも正しい母乳の知識が広まる」と感慨深く思いました。この内容はかねてから、世界的にも常識となっていたものだったからです。

私は、産科医であるとともに3人の子どもの父親でもあります。第一子はミルク、第二子は混合、第三子は母乳のみで育てました。私自身の子育ての過程が、母乳育児の施行錯誤の過程でもありました。

十六年前、妻が流産の後に第一子をもうけました。逆子で、帝王切開でしたが、気がつけばミルク100%・・・。しかし、私はどうしてそうなったのか、いくら考えても解からない恥ずかしい産科医の父親でした。臨床に出て、治療、管理、出産のことについては沢山学びましたが、母乳育児については誰も教えてくれなかったのです。

6年後、大きな第二子が経膣分娩で生まれました。しかし、その余裕はすぐになくなるほど子どもの体重減少が大きかったのです。助産師の力も借りて、「今度は母乳でいけるかな」と思いましたが、いくら私が妻を励ましても、妻がどんなに頑張っても、体重は増えなかったのです。1カ月かかって、ようやく生まれた時の体重にもどりましたが、妻はクタクタでした。「お前は本当に頑張ったよ。ミルクを使おう。ミルクを使ったからと言って、ダメな訳ではないんだ。」と、妻と話し合いました。その後、第二子はミルクと混合で育てることとなりました。

世の中とは不思議なもので、予期せず第三子に恵まれました。この時、妻の子宮は切迫破裂の状態で、緊急帝王切開となりました。妻は、全身全霊をあげて母乳で育てました。母子同室・頻回授乳、そして何よりも家族全員で協力しあい支えあった結果、3人目の子どもは完全母乳となったのです。この子が3歳半のある日、自分から「おっぱいちょうだい。これで終わり。」と言いました。そしてその後、一度もおっぱいを吸いに来なかったのです。

こんな貴重な体験をさせてもらった妻と我が子達に感謝しつつ、当院においでになるお母さんたちにも何らかの援助ができたらと思い、これまで頑張ってきました。私自身、悩み、考え、喜び、落ち込み、安堵し、また不安に陥ったりしつつ、子育てをしています。そして同じように不安を抱えながら、それでも大きな喜びの中で、一生懸命に、必死に、子育てをしているお母さん方を知るにつけ、母乳育児のことをもっと知って欲しいと思うようになりました。しかし、全てのお母さんを診ることはできません。

だから「母乳育児に興味があるのだけれど。」と思っている妊産婦さんたち全員を応援したいという思いでこの本を書きました。この本が少しでも皆様のお役に立てたらと、心から願っています。

最後に、ここまで一緒に頑張ってくれた吉田幸子助産師、当院での出産がご縁で母乳育児に共感され、本書出版にご尽力いただいた三石里絵氏、両氏に心から感謝いたします。

2008年 3月吉日
ゆのはら産婦人科医院院長 柚原 健男